信州伊那谷には、美しい自然と調和を保ちながら、景観を美しくかたち作って きた民家が数多く伝承されています。百年、二百年も使い込まれながら、今なお生命力を示しているそんな民家が現代の住まいの要求にこたえられなくなり、存在の危機に立たされ続けています。
近年農林業の衰退と共に、信州伊那谷でも農地の乱開発が進み、農村原風景が荒れ、地域のコミュニティー生活も危惧化しつつあります。そんな中で景観を維持し、またニ・三世帯同居のライフスタイルを継続する民家再生を、地域産材活用のもと、積極的に取り組んでいます。
民家を作り上げてきた材料、職人工法が作り上げた技術力・手仕事といい、現代ではとうてい不可能なものばかりです。伊那谷の風土と調和を保ちつつ、美しく景観を形づくってきた民家の後ろに、景観への配慮を欠いた住宅や、地方性のない住宅が次々と建ちつつあります。
「家の建てやうは、夏をむねとすべし」
徒然草にあるように、伊那谷の民家を再度見渡せば、南側にはシンボル的な松を配した庭園を配置し、屋根の流れは明快で庇(ひさし)の出は十分に深く、夏の日差しを考慮したものです。通風自在な平面は、大きな開口部と開閉自在な襖戸を備え、真に伊那谷の風土が生んだ機能性で美しいものです。
特に明治以降、養蚕全盛期に建てられた切妻総二階形式の民家は、二階部分の模様替えも容易で居住性も高いものです。現代に適合しなくなった水廻りの模様替え、冬の寒さの対策に開口部・外廻りの断熱化を行えば通年的に快適な現代 住宅を超えたまさに『現代民家』へと生まれ変わるのです。
今回の、築後百二十年になる高森町の自宅の再生にあたり、『現時代性への適合』と『ローコスト化』をテーマに取り組みましたが、民家独特の床下の湿気を防ぐ土間コンクリート打ち、冬の寒さを防ぐ入念な断熱化工事を行っても、最小限の解体工事・クリーニングなどをすれば坪(3.3m2)あたり四十万円以内で可能かと思われます。
私は、風土と共に生きてきた美しい民家が現代に息吹を与えられ、『現代民家』として成長しつづけるよう願っています。